緩和医療というと、ひと昔前は、末期治療というイメージがありました。
現在の「緩和医療」には、「死を安らかに迎える」という従来のイメージに限らず、
治療による苦しさを軽減する
治療の効果が出るまでの間、苦しさを減らす
体の痛みだけでなく、不安などの心の痛みを緩和する
痛みだけでなく、吐気、きつさ、だるさ、息苦しさを軽減する
本人だけでなく、家族の痛みにも目を向ける
「がん」だけでなく他の病気(呼吸困難、帯状疱疹)も対象とする
ことが含まれています。
ですので、「がん」に関して言えば、手術や抗がん剤治療などが始まるときには、緩和治療も並行して始められることが奨められます。
そして、治療によって苦痛が軽減すれば、緩和治療もやめることができます。
つまり、
今までの緩和医療のイメージ
<治療ができなくなったので、緩和治療に切り替えましょう>
今の緩和医療のイメージ
<治療も大事ですが、きつくないように緩和治療も併用しましょう>
となっています。
実際に、「通常の治療」と「緩和治療を併用」した場合の方が、「通常の治療」だけ受けた人よりも、長く生きるというデータもあります。
「がん」で患者さんを悩ませるのは、「痛み」です。
一般的に、「がん」が大きい場合や数が多い時に、痛みは強くなります
「痛み」があると憂鬱な気分になるし、周りにやさしくする余裕を失ってしまいます。「痛み」があると「治療」にも前向きになれません。
痛みは、検査をしたら数値がでるわけではありません。
痛みは、本人が感じた痛みを伝えなければ、周りに伝わりません。
患者さんが痛みを何とかしてほしい時には、緩和治療の対象となります
もちろん、痛みの感じ方はそれぞれです。しかし、痛いのは痛いのです。
それは、「がん」による痛みかもしれません。副作用によるものかもしれません。心の不安が痛みを増強させているのかもしれません。
いずれも、緩和治療の対象です。遠慮する必要は全くありません。
医師に相談しましょう
医師は、なるべく痛みがゼロになるように、治療法を考えます。
痛みを表現する言葉を知っていると、痛みを伝えやすいと思います。いつから、どのような痛みが出ているのかが主治医に伝われば、適切な対応につながりやすいはずです。
痛みには種類があり、
① ケガや注射などで感じるような痛み(体性痛)。
「するどい痛み」、「うずくような痛み」、「かみつかれるような痛み」と表現されます
② おなかを下す前のような痛み(内臓痛)。
これは、「にぶい痛み」、「しめつけられるような痛み」、「重苦しい痛み」と表現され、痛みが波のように強くなったり弱くなったりします。また、冷や汗が出る、目の前が真っ暗になるような感覚を伴うことがあります。
③ 神経痛などで電気がはしるような痛み(神経障害疼痛)。
「刃物で刺すような痛み」、「灼けるような痛み」、「突然槍で刺されたような痛み(電撃痛)」と表現されます。
原因によって出てくる痛みも異なり、それぞれ対応策や治療薬が異なります。
痛みの治療には、WHO(世界保健機構)の鎮痛薬使用ガイドラインを日本人向けに改良したものが使用されます。
① 痛みが比較的弱い時は、腰痛や頭痛で使う、消炎鎮痛薬が使用されます。しかし、これらの消炎鎮痛薬は長く飲むと胃を痛めたり、腎臓を弱めたりする副作用が出てきます。また、多く飲んでも、ある程度で鎮痛効果が頭打ちになってしまいます。
② 消炎鎮痛薬で効果が不十分な場合は、オピオイド(モルヒネ系鎮痛薬)が使用されます。モルヒネと聞くと、すでに治る見込みがない、と嘆かれる方もいますが、治療で「がん」が小さくなり痛みが治まればモルヒネをやめることは可能です(実際に私の患者さんでも何人もおられました)。痛みが強い場合は、普通の消炎鎮痛薬を飲みすぎて副作用で体を痛めるよりは、早めにオピオイドを追加した方が患者さんの満足度は高いようです。
オピオイドに関しては、どれくらいまでしか飲めない、というのはありません。基本的には、オピオイドの量が多ければ多いほど、痛みを抑える効果は高くなります。
オピオイドの副作用には、内服初期(1-2週間)の眠気や吐き気、便秘、排尿障害があります。
しかし、オピオイドの一般的な負のイメージである、①幻覚、②わけのわからない言動、③薬物依存、などは適切な使用の範囲では、非常に僅かであり、私自身は見たことがありません。
オピオイドは「痛み」を抑えるだけでなく、呼吸の苦しさをとり除いたり、体のきつさを軽減する働きがあります。
他には、痛みの原因となる部分に放射線を照射したり、切除することによって、痛みが取れることもあります。