「がん(癌)」とは何か?
「がん」とは悪性腫瘍のことです。
腫瘍とは「できもの」のことですから、悪性のできものが「がん」です。
しかし、腫瘍の中には、早期肺がん(腺癌)のように、治療が適切に行われればほぼ100%治る(生命予後のよい)悪性腫瘍もある一方で、良性腫瘍のなかには切除しても再発を繰り返したり、体の奥に発生するため切除できず命に関わるような、「予後の悪い良性腫瘍」もあります。
悪性と良性の区別は、意外と曖昧ですが、一般に「がん」の特徴は
①無制限に大きくなる
②リンパ節や他の臓器に転移して全身を蝕む
③進行が早い
④治療をしても再発をすることがある
ことではないでしょうか。
日本人の死因のうち3割は「がん」です。日本人のうち半数近くが「がん」になります。
高血圧、糖尿病よりも、よっぽどありふれた病気です。
そもそも、なぜ「がん」になるのでしょうか?
人間の体は正常でも約60兆個の細胞からできています(世界の人口の1000倍です)
日常生活で、吸い込んだ空気や食べ物のなかには化学物質が含まれています。毎日、汚染したものに触れる臓器では、細胞に次々に刺激が入り、遺伝子に変異をが起こります。
ある時、60兆個の細胞のうち1個の細胞が、死なずに無制限に分裂する才能を手に入れ、分裂増殖しはじめます。
60兆個も細胞がいれば、いろいろな細胞ができるのです。
腫瘍細胞が分裂して、1cmの大きさになるのには約10年かかります。
その時には細胞は約10億個になっています。
10億個の細胞の一部は、血液の波に乗って、他の住みやすい臓器を探します。辿り着いた細胞は、それぞれの場所で増殖します。
もちろん、すべての変異細胞が「がん」になるわけではありません。
腫瘍細胞が体に悪影響を与えるくらい大きくなるためには、免疫細胞から逃れたり、悪い環境でも生き延びる力を持つ必要があるため、一部の腫瘍細胞だけが「がん」になります。
以上のことを考えれば、「がん」ができやすいのは
①正常細胞を痛めつける刺激物の暴露がある
②がん細胞が育ちやすい体内環境がある(免疫が弱いなど)
ときです。
①で言えば、喫煙、濃いアルコール、ウィルス感染、放射線暴露などがあげられます。②で言えば、肥満、免疫力低下、があげられます。
しかし、ほとんどの「がん」の原因は不明です。どんなに気をつけていても、年齢を重ねるとそれだけで「がん」の発生頻度は増えてきます。
以前は肺がんは喫煙者の病気でしたが、タバコを吸っていない女性の肺がんが増加してきています。努力でリスクを減らすことはできますが、ゼロにはできないので早めに検診をうけ早めに治療を受けることが大切です。
医療が進歩しても日本人の3割は「がん」で亡くなります。
医学研究者として「がん死亡」をゼロにできるように努力してきましたし、医師として目の前で多くの「がん患者さん」を見送り無力さを感じてきました。
しかし、一方で「がんによって命を落とすこと」は決して悪いことばかりではないと思っています。
「がん」はよくある病気ですので、予後が大体分かります。進行が早いといっても「がん」になってから命に関わるまでは数か月から数年かかります。
その間も意識は清明なので「いわゆる死の準備」が可能です。これまでの感謝を述べる時間、自分がいなくなってからのことも考える時間、があります。もちろんツライと思います。
順風満帆に過ごしている時よりも、このような時にどう行動できるかが、その人らしさを表しているようにも思います。
また、残される家族の方も治療経過や闘病生活を見ていると、病状の進行や来るべき死について、受け入れることができるようになってきます(もちろん、あきらめではなく、最後まで奇跡が起こるように期待しています)。
人類の大半は永遠に生き続けて、自分だけが死ぬのではありません。
人には、必ず死ぬ時が訪れます。
死ぬと思っていなかった病気がどんどん悪くなる
脳卒中などえ突然意識がなくなり寝たきりになってしまった
不慮の事故で最後のお別れを言う時間もなかった
という状況で迎える死と「がん」で穏やかに最期を迎える。
どちらが良いとは言えませんが、私は「がん」で死ぬのも悪くないな、と思っています(やはり欲がありますから、なるべく遅くとは願っていますが、、、)。